ZERONIでは、システム構築、運用の「脱ベンダー依存」を目指し、企業が自律的にシステムを構築・運用できるようサポートしています。

設立42年を誇る結婚相手紹介サービス、オーネットでは、ZERONIの併走サポートによって、システム運用、保守の「脱ベンダー依存」を進めつつあります。コアとなるサービスを10年以上支えてきたシステムの運用、保守をどう変えたのか。

システム運用、保守に感じていた課題や、ベンダー依存から抜け出すプロセスについてオーネット 副社長の中村太郎様、ZERONI西浦に話を聞きました。
プロフィール

株式会社オーネット 取締役副社長
中村 太郎 様 Taro Nakamura

1985年に東芝へ入社。ネットサービス事業のインキュベーション・投資業務に従事。インキュベートした新規事業の一つであった株式会社駅前探険倶楽部に出向し、代表取締役に就任。以来、転籍を経て2020年まで同社の代表を務める。2021年にオーネットへ入社し、現在は経営戦略本部、マーケティング本部を管掌する。

株式会社ZERONI 代表取締役
西浦 智博 Tomohiro Nishiura

大阪府立大学を卒業後、新卒でワークスアプリケーションズに入社。会計領域、SCM領域のソフトウェアエンジニア、プロダクトオーナー、事業責任者を経験。BtoBの領域において、過去に蓄積された IT 負債によって苦しんでいる顧客を目の当たりにし、それらの問題を解決したいと考え、2019年11月に株式会社ZERONIを設立。

コアとなるシステムの、社外依存から脱却したい

── そもそも、中村様は自社のシステムにどのような課題を感じていましたか。

中村様:私は現在、オーネットで経営戦略とマーケティングを統括しています。主に広告からの会員転換や、会員サポートのためのCRM、そして会員が利用するサービスなどのシステムについてマネジメントしています。

オーネットは創業以来、結婚相手紹介サービスを運営してきましたが、IT化が進み現在のシステムになってから10年が経ちます。会員数は業界最大級でそれを維持拡大するための見込みも毎月数万人単位で会員転換プロセスを通っていただいている状態です。

当社には現状、内製の開発チームがいません。以前は複数のSI会社に運用・保守をお願いしていましたが、ドキュメントが統一されておらず、なんの作業にどれくらいの工数がかかっているのかもブラックボックスな状態でした。

外部の委託パートナーに依存しきっていて、運用、保守にかかるコストが適正かどうかも判断できなかったのです。そして、サービス強化や効率化のための「攻め」の開発投資と、「守り」の運用、保守の費用のバランスが悪いように感じていました。また、機能開発の際に、現有システムへの影響が見えづらく、それに起因した課題が多すぎるとも思っていました。

自社のコア事業にかかわるサービスで、サービスの根幹となるシステムの領域をコントロールできていないのはまずい。また、「攻め」の成長投資のためにも、運用・保守の体制を早急に改善しなければならないと感じていました。

── 最初に中村様のお話を聞いたとき、西浦さんはどう感じましたか。

西浦:中村さんから状況を聞き、まず関連するシステムのソースコードをすべて読みました。率直な感想として、いろんな機能やサービスが後から追加されていて、不具合が多いなと感じました。

言葉を選ばずに言えば、不具合のある部分を根本治療せず、なんとなく対症療法しているように見えたんです。とはいえ、10年近く運用しているシステムでは、よくあることだとも思いました。

中村様:その後、システムのすべてをつくり替える必要はなく、一部の機能改善と、運用、保守業務を刷新すれば大丈夫だと西浦さんから言われ、正直ホッとしました。

それに手元にあるドキュメントや、運用時の障害発生の仕方、機能開発時の制約のあり方を見ていて、「おかしいぞ」と感じることも多かったんです。だから「やっぱり」という気持ちの方が大きかったですね。

西浦:こうしたディスカッションを繰り返し準備期間を経て、2022年4月の運用・保守切り替えを目指してプロジェクトをはじめることになりました。

事業会社こそ、自社システムにオーナーシップを持て

── プロジェクトをはじめるにあたって、どんなことを重視しましたか。

中村様:外部の委託パートナーへの依存状態を脱却するということです。それが実現できれば、IT投資額の適正化を図れますし、効率化や新しい機能開発にコストを充てられるようになります。事業をより推進できるはずだと思いました。

その点、ZERONIさんは当社の課題を率直に話してくれますし、なんでも「やりますよ」と手を動かしてしまうのではなく、当社の目指す姿に焦点を当てた本質的な提案をしてくれます当社が社内でシステムを運用すべく自立プロセスに伴走してくれるパートナーであるという点が、信頼できると感じました。

西浦:もともとZERONIでは、SI会社への依存状態になっている企業の自立・自走をサポートすることを掲げています。

ソースコードを見たとき、10年の歴史あるシステムをつくり替えるのは現実的ではありませんが、一定程度コードや仕様をきれいにして運用、保守をサポートすることならできると思いました。

── ITシステムの運用、保守の分野は専門性も高く、自社の事業に精通した社内の方でも自走するのは難しい領域なのではないでしょうか。なぜ自走すべきだと考えたのですか。

中村様:やっぱり事業の核となるサービスですから、私たちが自らオーナーシップを持たなければいけないと思うんですね。もちろん、信頼のおける外部パートナーにサポートしてもらうことは重要ですが、「自分たちはシステムのことはわかりません」「永遠に外部に面倒を見てもらいます」と、他社にべったり依存するのは好ましくない。

それは、事業のスケールを他社に委ねるようなものですから。

当社として、「どのようなITシステムにしたいか」「何が理想状態で、今後どうしていきたいか」といったビジョンや判断軸を持ち、それをパートナーとあくまでも対等な立場で議論・相談していく、こういうあり方が大切なのではないでしょうか。

これまでコンシューマ向けのネットサービスを立ち上げ、20年以上運営してきて思うのですが、これからは結婚相談という「人的サポート」がコアバリューである非IT系のサービスであっても、DXやIT化を推進して否が応でもITサービスへと進化することが必須です

その過程で、「システムのことは人任せ」といつまでも知識やスキルを磨かなければ、ビジネスをサステナブルに拡大していけません。

当社社内で運用、保守を自社だけで回していくほどのオーナーシップを持つのはこれからですが、担当社員全体のリテラシーを底上げしていきたいと思っています。

西浦:これからITサービスで事業をスケールしていくとなると、事業責任者や事業推進を手掛けるビジネスサイドの方々にも、プロダクトマネジャーに近い考え方や知識が必要になってくると思います。

自社の事業のこともわかり、ITにも精通し、システム目線でビジネスのスケールに寄与できる。こうしたスキルはこれからの時代のポータブルスキルですし、どんな会社でも通用する人材なのではないでしょうか。

いつか社内で、運用、保守をコントロールできるように

── 依存状態だった運用、保守をどのように整理し、解決していきましたか。

西浦:どうすればいいのか考えるための判断材料となる情報をしっかり示すことを大切にしていました。たとえば、根本的な不具合修正に、これまでの倍の期間とコストがかかるとします。

それを、これまで通りにとりあえず暫定対応で済ませるのではなく、恒久対応して本質的により良いシステムにするから期間もコストもかかる、というように必要な情報をその都度示すように気をつけました。

それから僕たちはあくまでもシステム部門の方や、中村さんと話すようにして、実際にシステムを使うユーザー部門のみなさんとは話さないようにしましたね。

── それはなぜですか?

西浦:いつかオーネット様のご社内だけで、運用、保守業務を完全にコントロールできるようになってもらいたいからです。

僕たちがユーザー部門の方々と直接話してしまうと、以前と同じように「ZERONIがいないとシステムを運用できない」という状況になってしまいます。たとえ一緒にプロジェクトを進めていても、どこか「ZERONIがヒアリングしてくれるから大丈夫」と他人ごとになってしまいやすい。

中村様:実際、社内のユーザー部門からも「ZERONIさんと直接話をさせてほしい」という要望が出ることもあります。以前は、運用、保守を担当するSI会社様から常駐のエンジニアにきていただいていましたので。

西浦:そういったご要望はよく理解できます。ただそれでは、オーネット様のシステム運用ご担当者が、ユーザー部門の方々とディスカッションする習慣ができません。ユーザー部門の求める機能や改善点についても理解が進みませんし、社内に知識やスキルが蓄積できないのではないかと思います。

中村様:同感です。いつまでも外部の委託パートナーにすべての作業をお願いしていたら、自分たちのシステムを自分たちで運用していこうというマインドが醸成されません。

そこで、ZERONIさんとプロジェクトを進めるにあたり、1つルールを決めました。うちのシステム部門には3人のサービス運用担当者がいるのですが、ユーザー部門との会話は必ず当社のシステム部門の担当者が行う、と。

繰り返しになりますが、事業の核となるサービスですから、当社のシステム部門担当者が「プロダクトオーナーである」くらいの気概が必要だと思います。

西浦:システム部門とユーザー部門が直接話す習慣ができると、「どうすればより良いシステムになるのか?」という、一つの目的に向けて一緒に考えるようになります。

するとシステムに関わる全員が自分ごとになるので、自然とリテラシーも上がるし、システムとの向き合い方も変わっていく。システムの改善・向上が加速すると思っています。

ちょっとした機能改善はツールやAPIで対応。コストもリードタイムも少なく

── そうはいっても、それまで外部の委託パートナーにすべて依頼していた状況からすると、大きな変化ですよね。オーネット様社内で自走できる体制をつくるため、ZERONIでどうサポートしましたか。

西浦:システム構築に関する知識やスキルが、身につけやすい環境をご提供しました。具体的には、システム部門のみなさんにSQLを書いてもらったり、簡易な機能追加であれば、弊社に発注するのではなく、社内でやってしまいましょう、という提案を行ったりしています。

中村様:かなりエンジニアリングの実務に寄った部分ですよね。

西浦:ええ。ただ、技術的に難しい部分について、いきなり全部自力で頑張って組んでくださいというのは当然難易度が高い。なので、私たちが併走しながらサポートしています。

たとえば開発知識が必要な部分で不明な点があった場合は、いつでも聞いていただけるよう専用のSlackチャンネルをご用意しています。専門家に聞ける環境があり、サポートを受けながら自力で解決する経験を積み重ねていくことで、自社でコントロールできる領域もより広がっていくのではないでしょうか。

ちょっとした追加機能の開発や不具合対応なら、ベンダーに依頼せず社内で対応できるようになります。一見、サービス運用担当者のタスクが増えるように感じるかもしれませんが、メリットの方が大きいのではないでしょうか。

中村様:これまでは簡単な機能改善にも、その都度ベンダーに工数を空けてもらって、社内で予算を捻出して……と手間暇かかっていました。リードタイムも長くなり、システム部門のメンバーも疲弊しがちだったんです。

そこが社内でできるようになることで、以前よりコストが抑えられていると感じています。

営業部門が「プロダクトのロードマップを考えたい」と変化

── 率直に、ZERONIとプロジェクトを推進してみて、運用、保守にどんな変化がありましたか。

中村様:最近、少しずつシステム部門と、ユーザー部門の関係性が変わりつつあるんですよ。これまでは、ユーザー部門から要望があっても、単に「できません」と断ったり、右から左へベンダーに伝えて終わったりしていました。

いまではユーザー部門と適切に会話する習慣ができつつあり、会員様にとって、事業にとって必要なサービスは何か、いまつくるべき機能は何かを考える関係性ができはじめています。

先日、営業部門から「いままでは、何か開発プロジェクトがあれば、それに便乗して欲しい機能をとにかく盛り込んでしまえと思っていました。でも、システム部門と話し合えばいいんだということが少しずつわかってきた。これからはこんなプロダクトにしたいというロードマップを自分たちで策定し、長期的なプランを提示していきたいです」と言われたんですよ。

本当に驚いて。こんな言葉がユーザー部門から出てくるとは、思ってもみませんでした。

西浦:これは僕の肌感なんですが、オーネット様の場合、あと2年ほどで運用、保守をご社内でコントロールできるようになるのではないかと思っています。

中村様:ここまでできたのは、ZERONIさんの併走サポートのおかげだと思っています。いろんなSI会社と仕事をしてきましたが、これほどパートナーシップを感じたことはありませんでした。

最近はとくに、ZERONIさんとの協働を通じて事業の核となるサービス自分ごととしてコントールできるようになるんだという意識が、メンバーに芽生えてきたように思います。

今後もZERONIさんに併走してもらうことで、コストを抑えながらもより事業インパクトをもたらせるシステム運用、保守、さらには「攻めの開発」をしていけたらいいですね。

撮影:赤松洋太/編集・執筆:石川香苗子

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